黒柳陽子×創造

90年代、一大ブームとなった「たまごっち」の生みの親。

キャラクターが成長するのをゆるく手伝うだけのゲームに、日本中の若者を熱狂させた仕掛人、黒柳陽子氏。

彼女のプライベートな側面、たまごっち後の活動、クリエイターとしてのこだわりなど、訥々と語ってくれたその口調を損なわないように、極力、いじらずに構成した。

黒柳陽子ワールドへ、ようこそ。

おもしろがれる”ことが大事

やっぱり年齢を重ねていくっていうのは、色んな嫌なこととか辛いこととかあると思うんですけれども、 私がそういう時、何でテンションを戻して元気になるかというと、“おもしろがれる”ものに触れることなんですよね。 “おもしろがれる”ものっていうのは、主にエンターテイメント。昔から映画とか小説とか、 人が作ったものが大好きで、想像上のものとか、ドキュメンタリーも好きなんですけど、エンターテイメントが大好きなんです。 辛い時に映画を観たり落語とか歌舞伎とか人が作ったり演じたものでエネルギーを貰うことがよくあります。

 

 

自分で生み出すもの

最初は本を書こうと思って、自分で物語を書いていたんですけども、 そこからゲームを作ろうと思うようになりまして……。自分の作ったキャラクターが動くゲームを作りました。 その流れでたまごっちが生まれたわけなんです。そのたまごっちが終わった後に自分のシナリオでアクション RPGを作る機会があり、大ヒットにはならずに、ちょっとカルト的な支持を得たというか笑  あまり世間の皆さんには受け入れられませんでしたが、一部の人たちには物凄く好きになって 貰えるようなものができて、今まで私が作ったものって大体そういう感じなんですよね。

 

 

いちばん“おもしろがれる”ものは―――

ホログラム制作がおもしろかったです。普通の写真では見えない角度から見える映像 や独特な色彩が魅力です。まあ、理屈通りには色が見えてるんですが、みずみずしくてとても綺麗なんです。 そのホログラム像を写真で撮ろうと思っても、目で見えた通りには映らないんですけど、そこが良いんです。 自分の肉眼で見ると感激できるんです。花火と同じです。花火の火は写真とか、 ビデオに映った色合いと直接見たときと明らかに違うと思うんですけど、 そのような独特な色合いが表現出来るということで、ホログラムは素晴らしいです。 これはもうこのものでしか成し得ない映像が作れると思って、私の世界観をそこに投影できるのかなと考えまして、 しばらく夢中になっています。

 

 

「ホログラムについて、話しているだけで楽しい」

ホログラムのなかにキャラクターを入れてかわいくしたり。 自分でこう、造形を作りまして……。ひとに見せたい気持ちはあるんですけど、 その時しか見れないんです。ホログラムの写真を撮ることはできますが、 直接見るのとはかなり違ってしまいます。荒くなるというか……薄くなるというか。 一つの方向から見た色の一つのパレットセットで奥行きも薄くなるみたいな。 透明感も写真には反映されず、みずみずしさを失ってしまうんです。 大体の雰囲気を写真に撮ることはできます。ある角度で見た色味しか映らないのが残念ですね。 いろんな角度なりの色が見られるのが魅力なんですけどね。

 

 

 

 

イメージ上から
空間に寿司の羅列
ミラー反射で無限の奥行(キャラクター)
それを覗く人間
炎のキャラクター
燃えるエフェクト・炎
【作品のテーマ】
「Plausible but Nowhere, Improbable and Somewhere」

 

 

ホログラムが生きがいとしか思えない黒柳さん

ホログラム制作は、ラボのような施設でやるのが理想なんです。なぜなら、 まず出力の高いレーザーが必要ですとか、振動が大敵だとか、埃とか…………。 ホログラム自体は昔からあるじゃないですか。あの、よくある緑色の……。緑色だったり赤だったり……。 一番みなさんの目に触れているのはお札とか、偽造防止の虹色にキラキラするやつ、あれはホログラムなんです。 あれにはホログラムの技術が使われています。

 

 

―――今、この年齢になって“生かな”って

ホログラム制作が生きがいのように話してしまいましたが、それは19年くらい前のことで、 ホログラム制作は一応継続しているんですけど、今それ以上に熱中していることはライブストリーミングです。 ネット放送とかライブ中継ですね。一応キャラクターデザイナーなので、 VTuberを作ってそのキャラクター個人のチャンネルを開設して配信しています。 時間がある時に不定期に配信しているという感じです。昔からあまり、 “生で伝える”っていうのはしていなかったので。イメージして作って出して終わりっていう仕事でしたから。 でもやっと、この年齢になって、“生かな”って思いまして。 今まで出来なかったようなふわふわしたよくわからない状態のままを出しながら、 反応を生で感じられるっていうのが、面白いです。未完成なものを出しながらの、 フィードバックがあってからの、また違う新しいものを出していくというライブっていうのを 最近やっちゃってるんですよね。

 

 

完全匿名の楽しみ

経歴とか、素性を隠して匿名でやってるんですよ。現実の自分の要素を出さないように気をつけていて、 そこがこのことをやる意味と言うか面白いところなんですが個人で、収益化を考えずに思いついたことをしたり、 言いたいことを言い、やりたいようにやっています。キャラクターの設定を作って、そこからはみ出さないように気をつけてやっています。キャラクターになりきって、発信しているんです。

 

万人ウケは必要なし

昔から私の好きなことは共感されにくかったんですよ。それで、 お前に共感するやつなんかいねぇ、みたいなことを言われ続けてました。 でも、今なんでも多様化、細分化されているじゃないですか、ニーズが。社内で不評でもヒットするとか、 リリースして売れなかったけど一部で熱狂的信者を獲得するとか、目を背けられたり、 けなされたりしても、良いと思う人がいるならやってても良いのではないか。大勢が何とも思わなかったり、 嫌いでも、好きっていう一部の好事家のために存在するんです。外国の方が熱心に聞きに来てくれていて嬉しい。 外国語を交えながら配信していくことに、いま一番熱中していますね。

 

一部のファンのための創作を

ご主人の森栄樹さんと

 

 

仕事をし始めたころは、マクドナルドとかディズニーとか、メジャーで消費される仕事をしたいと 思っていたんですよ。百貨店の包装紙とか、タバコのマークとか、大勢に消費されるものを作りたいと 思っていた時期がありました。でも私の作品はごく一部のマニアにしかうけないので……。 たまごっちはあんな風になりましたけど、大手メーカーから発売された製品ですから。 たまたまバンダイさんの偉い方が私の企画書を見てくださって、採用してくださったからあれができたんです。 でも、社内ではやっぱりあの……すぐに高評価をいただけたわけじゃないです。 社長はいいと言ってくださっていたんですけれども、やっぱり今までに無いような絵だと 言われましたから笑 
奇妙な物事に対して「絶対にこれがいい」って譲らない信者がいるじゃないですか。 私を評価してくれる少数の違いのわかる人の為に何かしらしていこうって思ってます。 なんかおこがましいんですけど。そこを目指していこうかと。

 

黒柳陽子(くろやなぎ・ようこ)
キャラクターデザイナー/ゲームクリエイター。
たまごっちの企画・開発・デザインを担当。

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