生きがいを聞かれたの、実は初めて
いろいろな機会でインタビューを受けて来たんですけど、生きがいを聞かれたのは初めてです。 なので、取材をお受けしたときから、生きがいという言葉が持つ多面性もふくめて考えてきました。私が考える生きがいとは……。
自分の存在意義とは
――バレエが生きがいそのもの――
他の人ではなく、自分だからできること。それをやっているときに生きがいを感じるなと思いました。 自分の存在意義みたいなものを感じられるとき、生きがいを感じています。だから、バレエが生きがいそのものだと思うんです。 引退したとしても、バレエとは何らかの形で関わっていくと思うんですね。バレエの世界のなかに、身を置いていたいというのがありますから。
変化する自分
――バレエとの関係――
10年前は、いただいた役を全力で踊って、一つ一つ、良い舞台にしていくことしか考えていなかったかも。 今は、自分だけにできる表現を見つけようとしています。振付はいただいているんだけど、 自分だけの色を失いたくないと強く思うようになってきました。海外のダンサーの方とご一緒させていただく機会があるたびに、 そういう気持ちが強くなったし、大事なことだと実感するようになりました。自分だけの芸術の世界というものを造れないと、 自分でいる意味がないと思って……。そうしていくなかで4年前くらいに、自身のプロデュ―ス公演の機会を頂いて、 出演者、構成を決めさせて頂いたときに「生きがい」という言葉を実感しました。クリエイトしていく、構築していくことの魅力に引き付けられました。
名作、ボレロ
――やっと手に入れた自分だけの世界――
ボレロって、すごいひとがいっぱい踊っていますし、最初は踊ることが怖かったんです。 振付を追うのがせいいっぱいで。それが数年経って、自分の世界を一番表現できる作品になりました。 何度も何度も踊らせていただくなかで、赤いテーブルが怖い空間から自由な空間に変わったんです。 限られた空間なのに、狭いのに、限りなく広くて、自由な世界。誰にも侵されることのない、自分だけの世界。 ボレロはそんな存在になっています。そのときどきの自分、自分そのものが出てきちゃう、毎回変わっていくっていうのがボレロで……。 15年経って、今年、やっと、「私のボレロ」になれたかなと感じました。
毎回、全力
20歳そこそこで主役をいただいて、以来ずっと主役でやらせていただいているんですが、毎回、全力です。 20年間、全力です笑。全力でやるということは変わっていないんですが、感じることは変わってきていて、 同じ作品でも一回ごとに変わるのがバレエなんですよね。一回ごとに難しくもなるし、自由にもなるというのが、バレエの深さだと思います。
特別だと言われること
――踊りから生まれる、香り――
私より技術、表現力がたくみな人はたくさんいると思います。私は、 踊ることで漂ってくる香りというものがあると思っていて―――それが私だけにしか出せないものになることを追求しています。 自分だけの香りを、常に追求してきましたから。強い個性に惹かれるんですよね。自分だけの世界を作り出しているダンサーに憧れます。
同世代で、共有できること
――共有できない淋しさ――
少し年下ですけど中村祥子さんと話したときもそうでしたし、 スカラ座でお会いしたときのザハロワとの会話でもそうだったんですけど、ベテランと言われるようになって感じていることが、 同じだったんです。年齢的なことや、ライバルがどんどん引退してしまうことに対しての思いは、同じでした。 そんなことを共有できる同世代がもうほとんどいないんですね。率直に言って、“淋しい”です。同じバレエ団には同世代はもういなくて、 少し下の子たちも近いうちにやめてしまうので、私、今までもずっと一人だったけど、ますます一人に……。淋しいですね。 不安も、あります。厳しい世界ですから、不安を感じて、泣いちゃうこともあります。
10年後の生きがい
――自分の使命――
10年後もやはりバレエの世界に居るだろうと思います。踊っているかどうかはわかりませんが、 自分の力で後輩を引っ張っていけるようになっていたいです。今でも思っていますけど、 本当の意味で良い踊りを追求したいと思っているひとの手助けをしたいです。本物を求めているひとたちをディレクションできれば、 それはまたもう一つのバレエとの関わり方になると思います。そこに存在意義を感じられたら、10年後もやっぱりバレエが生きがいであり続けると思います。
上野水香(うえの・みずか)
東京バレエ団プリンシパルダンサー/神奈川県観光親善大使
5歳よりバレエを始め、1993年、ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞した後、
モナコのプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミーに留学、首席で卒業。
97年『くるみ割り人形』の金平糖の役で主役デビューを果たす
2004年東京バレエ団に入団
故モーリス・ベジャールに直接指導を受け、故ジョルジュ・ドン、シルヴィ・ギエムらとともに『ボレロ』を踊ることを許された
世界でも数少ないダンサーの一人となる
V.マラーホフ、M.ガニオ、J.マルティネズ、R.ボッレ、D.ホールバーグ、F.フォーゲル、L.サラファーノフ、
I.コルプ、M.ゴールディング、J.べランガール、J.カレーニョ、N.ツィスカリーゼ、M.ムッル、D.カマルゴら世界のトップダンサーとの共演多数
1993 ローザンヌ国際バレエコンクール スカラシップ賞
1996 世界バレエ&モダンダンスコンクール 金賞
2000 舞踊批評家協会 新人賞
2001 神奈川文化賞 未来賞
2002 文化庁 芸術選奨文部科学大臣 新人賞
2002 中川鋭之助賞
2003 服部智恵子賞
2018年 8月以降のスケジュール
http://www.mizukaueno.com/index.html
チケット問い合わせ
https://www.nbs.or.jp/
08/15
「世界バレエフェスティバル Sasaki GALA」
『ボレロ』(東京文化会館)
08/24
「東京バレエ団夏祭りガラ」(目黒パーシモンホール)
『エスメラルダ』(初演)
08/25
「東京バレエ団夏祭りガラ」(目黒パーシモンホール)
『エスメラルダ』(初演)
09/01
「東京バレエ団 プティパ・ガラ」(神奈川県民ホール)
『ライモンダ』より
11/17
『Jewels from MIZUKA Ⅱ』上野水香プロデュース公演
(神奈川県民ホール)
11/30
「20世紀の傑作バレエ2」(新国立劇場中劇場)
『インザナイト』『ボレロ』
12/02
「20世紀の傑作バレエ2」(新国立劇場中劇場)
『インザナイト』『ボレロ』